法人において代表取締役をしていた方が退任して、会長職に就くことがあります。
その際に、退職金が支給されることが多いです。
この場合には、いくつか注意が必要です。
実際に退職の事実があるのか
退職金はその名のとおり、会社を退職するにあたり労をねぎらう意味で支給されます。
退職しなければ支給されないものです。
代表取締役だった人が退職するとなると、それなりの金額が支給されることになるかと思います。
しかし、会長が後任の代表取締役を差し置いて重要な経営判断を行っていたとすると、
それは退職していないものと判断されます。
例をあげますと、
「会長にお伺いを立てないと既に決定していた重要事項が覆される」
「会長が取引先に営業をかけて、会長が独断で取引を決めてしまう」
などです。
この場合退職金が支給されたものの、実際には従前の仕事と同様のことを行っているため
その退職金が単なる給与として認定されます。
退職金が給与とされてしまうとどうなるか
退職金が給与とされてしまうと、次のような課税があります。
給与の経費計上が全額認められない
取締役に対する給与は、定期同額給与または事前確定届出給与のみが経費として認められます。
定期同額給与については、以前の記事をご参照ください
事前確定届出給与とは、あらかじめ支給日と支給金額を税務署に届出し、その届出どおりに支給した給与のことです。
このどちらにも該当しない場合には、法人税の計算上経費として認められないこととなります。
そうすると、経費が減ってしまうため法人税やその他税額が増えることになります。
退職金に係る源泉所得税の徴収漏れ
退職金は、通常の給与に比べ個人に課される所得税が少なくなっています。
そのため、退職金は給与として支給されるよりも所得税の控除(いわゆる天引き額)が小さい状態で支給されます。
しかし、退職金ではなく給与とされてしまうと、所得税の控除が不足することになります。
会社は徴収した所得税を一定期間のうちに税務署に納付しますが、
本来の納付額より少ない金額を納付しており、納付不足になっています。
その納付不足は、まずは会社が本来の所得税額を納付することになります。
そして、納付が遅れてしまったことによる罰金(不納付加算税)が追加で課されます。
その後、控除不足となった所得税を会長から徴収します。
(できなかった場合は、そのできなかった金額も給与認定されることになります)
会長個人には追加の住民税も発生
先ほど、退職金は給与よりも所得税の課税が少ないと記載しました。
実は所得税だけではなく、住民税も所得税と同様に課税が少なくなっています。
会社は、会長に支給した給与の金額が変更になるため、源泉徴収票(12月頃に年末調整されて発行される書類)を市町村に再提出することになります。
そうすると、その源泉徴収票を元に住民税の再計算が行われ、住民税の追加徴収も発生します。
仕事をするなら退職金を支給しない
退職金を支給することで、法人に対して課される税額を少なくすることができます。
しかし実際に退職しなければ退職金は支給することはできず、支給しても本来の税金が課されることになります。
会長になっても従前と同じ仕事をするならば退職金は支給せず、本当に仕事をしなくなった段階で退職金を支給するようにしましょう。