Twitterで次のようなツイートを目にしました。
「税務署に質問したら、無料で責任もって教えてくれる。税務署みたいなことを言う税理士にお金を払ってまで小言言われたくない」
一般納税者が税務署職員に税務上の取扱いを質問し、口頭で回答を受けてその通り申告したとします。
その後税務署の調査が入って、あらかじめ質問していた事項について指摘が入り否認された場合、反論できるのでしょうか。
このツイートについて思うところを記事にしました。
税務署職員の口頭による回答を根拠にはできない
税務署職員に電話して質問し受けた回答、または納税相談における対面の口頭による回答をもとに申告書を作成したとしても、それが正しいとは限りません。
なぜなら、納税者が全ての情報を伝えられているとも限らず、また伝えられていたとしても税務署職員の全員が必ず正しい判断をできるとは限らないからです。
裁判においても、税務署の回答で信頼がおけるものは一定の責任ある立場の者の正式の見解の表示がある場合であるとされています。
ところで、租税行政においては、法令の解釈について、(中略)、租税職員の見解の表示がすべて信頼の対象となるのではなく、原則としては、一定の責任ある立場の者の正式の見解の表示のみが信頼の対象となると考えるべきであろう(名古屋地判平成2年5月18日、横浜地判平成8年2月28日)
金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2020年)146頁
一定の責任ある立場の者の正式の見解の表示とはどのようなものかというと、
国税庁では「事前照会に対する文書回答手続」という制度を設けています。
手続きを踏むと文書による回答が得られるものです。この文書があれば絶対に否認されないかというと不明ではありますが、口頭による回答よりは根拠が確かであると思われます。
口頭回答による処理を否認された場合の追加納付は自己責任
先のツイートの「責任もって」ですが、税務署職員は納税者の申告については責任をもちません。
日本の法人税・所得税・消費税・相続税は「申告納税制度」といって、納税者が自分の税額を自ら計算し納付する制度を採用しています。
納税者が計算し、計算した本人が責任をもって申告し納付するという制度になっています。
したがって、税務署職員からどのような回答を得たとしても、申告納付の責任は納税者が負います。
回答に基づいて行った申告が誤っていると調査において否認され追加の納税が発生しても、税務署職員は責任を負いません。
請求人は、原処分庁の従前の一貫した見解とそれに基づく原処分庁所属の職員による、しょうようを信頼して、本件各利益をいずれも「一時所得」として申告したものであることから、各年分の更正処分は、信義則に反するという意味で重大な違法がある旨主張する。しかしながら、このことをもって、課税の公平という要請を犠牲にしてもなお原処分庁の担当職員の指導等を信頼した納税者たる請求人の利益を保護すべき特段の事情があるものとは認められず、さらに、仮に、各更正処分等を取り消した場合には、請求人のみが正当な課税を免れ、かえって租税平等の原則に反する不当な結果となることを考慮すると、本件について信義誠実の原則を適用することは相当でないと認められることから、請求人の主張は採用できない。
国税不服審判所裁決要旨検索システム-(平15.8.1関裁(所)平15-8)
税理士は納税者の利益を守る立場で仕事をしている
先のツイートの「税務署みたいなことを言う税理士」ですが、
税理士法第1条には税理士の使命が掲げられています。
第1条 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
e-Gov法令検索-税理士法
税理士の多くは、納税者に不利にならないよう、かつ適正な納税が行えるように仕事をしています。
税務署みたいなことを言うというのは、過剰な経費計上などにより後に税務署に指摘され、余計な税金を納めるということにならないように説明しているのではないかと想像できます。
税理士は「納税義務者の信頼にこたえ」るために日夜努力しておりますので、税務署の手先のように捉えずに信頼していただければと思います。